相続人について
民法では相続の際に遺産を受け取れる権利(相続権)のある人を定めており(886条~895条)、これに該当する人のことを法定相続人といいます。
遺言がなければ、法定相続人のみが遺産を引き継ぐことになります。
本記事では法定相続人になれる人の範囲、相続順位及びその相続分について紹介し、さらに後半では、法定相続人であった者が相続人でなくなる場合について解説します。
法定相続人になれる人
⑴2種類の相続人
配偶者相続人 | 夫又は妻 |
---|---|
血族相続人 | ①直系卑属 ②直系尊属 ③兄弟姉妹 |
法定相続人には、配偶者相続人と血族相続人の2種類あります。
ここで各相続人について確認しましょう。
〇夫又は妻
法律婚の配偶者に限ります。
事実婚や内縁関係では相続は発生せず、パートナーに財産を遺す場合には遺言が必要となります。
〇直系卑属
被相続人(亡くなった人)よりも後の世代、つまり、子や孫、曾孫のことです。
まずは子が相続人となり、子が被相続人よりも先に亡くなっている場合は孫、孫が亡くなっていれば曾孫というように順次相続人になります(代襲相続)。
子は実子だけでなく、養子も含まれます。
婚姻関係にない父との親子関係においては、認知がされれば被相続人である父の子となります。
認知には、任意認知、裁判認知だけでなく、父の死亡後3年以内になされる認知の訴えによって認められる死後認知があります。
また、相続人であるには相続開始時に現存していることが必要ですが、例外として、相続開始時に懐胎中であり将来生まれてくることが予想される胎児については、生きて生まれれば、相続開始時に遡って相続人となります。
〇直系尊属
被相続人より前の世代、つまり、父母、祖父母、曾祖父母のことです。
まずは父母が相続人となり、既に亡くなっていれば祖父母、という具合です。
〇兄弟姉妹
被相続人の兄弟姉妹も相続人になります。
兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっている場合はその子(被相続人からみて甥姪)が相続人になります。
ただし、代襲相続(相続人の代わりに相続すること)するのは兄弟姉妹の子(甥姪)に限られ、直系卑属の場合のように「さらに、その子」という再代襲は認めらません。
⑵相続順位
被相続人に配偶者がいれば、この者が常に相続人となり、血族相続人との間で共同相続します。
血族相続人について①~③と番号を付けましたが、この順位で相続人となります。
具体的には、配偶者がいる場合はまず配偶者と子が相続し、子がいなければ配偶者と被相続人の父母が相続する、という具合です。
相続分
遺言がない場合の各相続人の相続割合は、法律で以下のように定められています(法定相続分)。
【配偶者がいる場合】
配偶者 | 子(孫) | 父母(祖父母) | 兄弟姉妹(甥姪) | |
---|---|---|---|---|
子(孫)あり | 1/2 | 1/2(人数で等分) | — | — |
子(孫)なし 父母(祖父母)あり |
2/3 | — | 1/3(人数で等分) | — |
子(孫)も父母(祖父母)もなし | 3/4 | — | — | 1/4(人数で等分) |
【配偶者がいない場合】
子(孫) | 父母(祖父母) | 兄弟姉妹(甥姪) | |
---|---|---|---|
子(孫)あり | すべて(人数で等分) | — | — |
子(孫)なし 父母(祖父母)あり |
— | すべて(人数で等分) | — |
子(孫)も父母(祖父母)もなし | — | — | すべて(人数で等分) |
相続人でなくなる事由
本来法定相続人となる地位にあった者が相続人でなくなる事由に、相続放棄、相続欠格、廃除があります。
それぞれについて解説します。
⑴相続放棄
法定相続人が、その意思に基づいて一定の手続きを経ることで遺産の承継を全面的に拒否することです。
〇どのような場合
主に以下のような場合に相続放棄が行われます。
- ・被相続人に多額の負債があることが判明した
- ・親族関係が険悪で相続に関わりたくない
- ・相続とともに事業承継が行われ、後継者に遺産を集中させたいなど
〇手続き
自分が相続人であること及び相続が開始したことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で相続放棄の申述手続きをします。
この期間を過ぎれば、後に借金が見つかったとしても、原則として放棄はできません。
〇効果
相続放棄をすれば、相続開始時に遡って、その者は相続人にはならなかったことになります。
したがって、その子が代襲相続することもありません。
また、相続放棄をした者の債権者が、放棄前に相続不動産を代位登記して持分を差し押さえていても、その差し押さえは無効となります。
⑵相続欠格
相続に関して不正な利益を得ようとして、不正な行為をしたり、又はしなかったりした者の相続人資格を奪う制度です。
法定相続人のすべてが対象になります。
〇どのような場合
以下の事由に該当すると、相続人資格がなくなります。
- ・故意に被相続人また先順位もしくは同順位の相続人を殺し又は殺そうとして、刑に処せられた
- ・被相続人が殺害されたことを知っていながら告訴・告発しなかった
- ・詐欺・強迫によって被相続人の相続に関する遺言の作成・取消・変更を妨げた
- ・詐欺・強迫により被相続人に相続に関する遺言をさせ、またはその取消・変更をさせた
- ・相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
〇手続き・効果
欠格原因にあたる事実があれば、特別な手続きや宣告を経ることなく、当然に相続人資格が剝奪されます。
相続後に欠格原因にあたる事実が行われた場合は、相続開始時に遡って欠格の効果が生じます。
また、この効果は特定の被相続人と欠格相続人との関係で生じる相対的なものです。
したがって、相続欠格者は初めから相続人ではなかったものと扱われ、代わってその子が相続することになります(代襲相続)。
なお、欠格相続人は特定の被相続人を相続できないだけであり、他の親族との関係で相続権が否定されるわけではありません。
⑶廃除
相続欠格のような重大な事由はないが、被相続人からみてその者に相続させたくないと考えるような非行があり、かつ被相続人が相続させることを欲しない場合に、一定の手続きを経て相続権を剥奪する制度です。
遺留分のない相続人(兄弟姉妹)に相続させたくない場合は遺言を利用することができるため、廃除の対象になるのはそれ以外の法定相続人です。
〇どのような場合
被相続人に対する虐待または重大な侮辱と、その他の著しい非行があった場合に廃除されます。
このうち「著しい非行」については明確な基準がありませんが、被相続人に対する暴行・浪費癖・遊興・財産の無断売却といった行為のうち、複数を行った場合に認める裁判例が多くなっています。
〇手続き
廃除の請求は家庭裁判所に対して行いますが、この請求は被相続人自らが生前に行うか、遺言で廃除の意思表示をして遺言執行者が行うかのいずれかを選べます。
その後、廃除すべきかどうかを家庭裁判所が審判又は調停で決めることになります。
〇効果
被相続人の生前に廃除の審判が確定した場合は、当該相続人はその時から相続権を失います。
これに対して、相続開始してから審判が確定した場合及び遺言による廃除の場合は、相続開始時に遡って相続権を失うことになります。
なお、廃除の効果は欠格の場合と同様、相対的です。
したがって、被廃除者の子は代襲相続が可能です。
まとめ
法律は相続人について様々なルールを定めていますが、一般的な家族を想定したものです。
現在では家族の多様化も進んでおり、定型的な相続では対応できないケースも少なくありません。
当事務所では「自分らしく」「家族のため」の相続について豊富なアイデアをご用意しています。お気軽にお問い合わせください。