相続分の算定について
「相続分」というと多くの方が法定相続分をイメージすると思われますが、すべての相続が法定相続分通りに行われるわけではありません。
本記事では3つに使い分けられる「相続分」について説明し、具体的な算定方法について事例を挙げて解説します。また、算定通りには分けにくい不動産の分割方法についても言及していきます。
3つの「相続分」
民法上明確に書き分けられてはいませんが、「相続分」が意味するものとして法定相続分・指定相続分・具体的相続分の3種類があります。
⑴法定相続分
民法が定めた相続割合のことです。相続開始前や遺言がない場合の相続開始直後において、誰がどのくらいの割合で相続するかの目安となります。
特に債権者や債務者という部外者にとっては、遺言内容や誰がどのような生前贈与を受け、貢献していたかを知ることは難しく、遺産分割協議の結論を待つしかないというのは現実的ではありません。
そこで、金銭支払いを目的とするなどの可分債権や債務については、原則としてこの法定相続分に従って相続人に分割承継されます。
法定相続人 | 法定相続分 | ||
---|---|---|---|
配偶者 | 子 | 1/2 | 1/2(人数で等分) |
配偶者 | 直系尊属 | 2/3 | 1/3(人数で等分) |
配偶者 | 兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4(人数で等分) |
⑵指定相続分
被相続人が遺言で遺産の取得割合を指定した場合における、指定された割合のことです。たとえば『妻の相続分を1/2、長男の相続分を3/8、次男の相続分を1/8とする』といった具合です。被相続人はどのような割合でも決めることができ、指定された相続分は法定相続分よりも優先されることになります。
ただし、被相続人が指定した相続分が遺留分(一定範囲の相続人に認められる最低限度の遺産の取り分)を侵害する場合には、遺留分侵害額請求の対象となります。また、指定相続分で決められるのは割合だけで、具体的にどの財産をどう分けるかは相続人らが遺産分割で決めなければなりません。
⑶具体的相続分
相続人の中には相続とは別に被相続人から利益(特別受益)を得た者や、逆に被相続人のために貢献(寄与)した者もいます。
そこで、法定相続分を前提として、これらの事情を反映させて調整をした後の相続分を具体的相続分と言います。
具体的相続分は複雑な計算方法で算出されます。その算定方法について見ていきましょう。
具体的相続分の算定
遺産から各相続人が実際に取得する額の算定方法の枠組みを簡単に説明します。
- 【算定の枠組み】
- 相続財産に占める各相続人の一般的な相続分額を法定のルールに従って求めます。
その際、各相続人の個別事情は、相続開始時の相続財産について特別受益額を加え、寄与分額を控除することによって反映させます。
そのうえで、各相続人の一応の相続分に、各相続人の特別受益・寄与分を反映させて具体的相続分を算出します。
最後に、具体的相続分に基づいて、各相続人が実際に取得する額を導き出しますが、ここで基準となる相続財産は遺産分割時の評価となります。
以上を式に表すと次のようになります。 - 【算定式】
- ⑴みなし相続財産額=相続開始時の遺産価格+特別受益額-寄与分額
⑵一応の相続分額=みなし相続財産額×各相続人の法定相続分
⑶具体的相続分額=一応の相続分額-各相続人の特別受益+各相続人の寄与分
⑷具体的相続分率=⑶の全相続人の具体的相続分額の総額に占める各相続人の具体的相続分額の割合
⑸現実的取得額=遺産分割時の相続財産額×具体的相続分率 - 【具体例】
- 被相続人:父(夫)
相続人:妻A、子B、子C
相続財産評価額:(相続開始時)1億円(遺産分割時)8000万円
特別受益:Aに3000万円の生前贈与
寄与分:Bが1000万円相当の寄与
遺言に相続分の指定なし
⑴みなし相続財産の算定は相続開始時の評価額を基準にします。
1億円+3000万円(特別受益)-1000万円(寄与分)=1億2000万円
⑵みなし相続財産に各相続人の法定相続分をかけて一応の相続分額を算出します。
A1億2000万円×1/2=6000万円
BC1億2000万円×1/2×1/2=3000万円
⑶⑵の一応の相続分額から特別受益額を控除し、寄与分は加算し具体的相続分額を算出します。
A6000万円-3000万円=3000万円
B3000万円+1000万円=4000万円
C3000万円
⑷⑶における各相続人の具体的相続分について全体に占める割合を出します。
全体3000万円+4000万円+3000万円=1億円
A3000万円÷1億円=3/10
B4000万円÷1億円=4/10
C3000万円÷1億円=3/10
⑸遺産分割時の相続財産の評価額に⑷の割合を乗じたものが各相続人の最終的な取得額です。
A8000万円×3/10=2400万円
B8000万円×4/10=3200万円
C8000万円×3/10=2400万円
不動産等の分割方法
各相続人の取得額が決まったとしても、遺産のほとんどが不動産であるような場合はきっちり分けることができません。
そこで不動産の分割方法について最後に確認しておきましょう。
- ・現物分割
- 不動産を相続人が単独取得することです。相続人の一人だけが単独取得することもあれば、複数の相続人が分筆した土地をそれぞれ取得することもあります。ただしエリアによっては土地の分筆が制限されていることがあります。
- ・代償分割
- 相続人の一人が不動産を単独取得する代わりに他の相続人に相応の金銭を支払うという方法です。単独取得する相続人に支払い能力があることが前提となる方法です。相続財産だけでなく代償金についても相続税の課税対象になります。
- ・換価分割
- 相続不動産を売却し、その売却代金を分ける方法です。公平かつ明快ではありますが、相続税とは別に売却金額に対する所得税と住民税がかかります。
- ・共有
- 分割はせずにそのまま相続人全員による共有状態を存続させる方法です。不動産の共有は権利関係が複雑になり、売却するにも共有者全員の同意が必要で、一人でも反対されると簡単には売却できません。
まとめ
事例ではわかりやすい数値を挙げましたが、実際の相続では株式や不動産等、価格評価の難しい財産が多数含まれていることもめずらしくなく、その評価をめぐって争いになることも多々あります。また、特別受益や寄与分についても事実の有無やその評価は難しい問題です。
ご自身の相続分について疑問がある方、また、債務者が亡くなって各相続人の負担割合について確認しておきたいという方は、当事務所までご相談ください。