遺言による相続紛争の予防
自分の死後、家族が相続争いに巻き込まれることを望む人は、まずいないでしょう。
紛争予防のため準備するものとして思い浮かぶのは、遺言です。
遺言とは、自分の死後に特定の法律効果を生じさせることを目的とする最終の意思表示のことをいい、これを記した書面が遺言書です。
本記事では、遺言がないと発生しかねないトラブルの数々について紹介し、遺言がもつ紛争予防機能について解説していきます。
遺言がないと発生しかねないトラブル
被相続人が遺言をせずに亡くなった場合は、法定相続分に従って相続が開始されます。
すべての相続人が法定相続の割合について不満がなく、かつ、相続の対象となる財産もきっちり分割できるものであれば、大きな問題にはならないでしょう。
しかし、実際には相続財産にはさまざまなものが含まれ、また、各相続人にはそれぞれの事情があります。
遺言がなかった場合の具体的なトラブルの例を挙げてみましょう。
⑴相続財産に関するもの
・不動産の中でも家賃収入のある収益物件は取り合いとなるのに対して、山林・田・畑などの売却できない不動産がいつまでも残る。
・相続開始前から遺産となる家に住んでいた配偶者以外の者が、居住し続けたいにもかかわらず、家を追い出されてしまう。
⑵相続人に関するもの
・相続についてもめている間に二次、三次相続が発生し、相続人が増え続ける。
・生前に被相続人を介護し生活の面倒をみてきた相続人と、まったく被相続人と交流がなかった相続人がともに法定相続分に従って相続すると、実質的にみて不公平な状態が生じることがある。
⑶遺産分割協議の伴うもの
・法定相続にはよらず遺産分割協議を行おうとする場合、相続人に行方不明者がいるときは、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任しなければならない。
・相続人間で遺産分割協議が不成立となった場合、家庭裁判所での調停、審判手続きを踏むことになり、遺産を受け取るのに時間がかかってしまう。
遺言のもつ紛争予防機能
⑴紛争の元凶は遺産共有状態
相続紛争の最大の原因は、法定相続人らによる相続財産の共有状態にあります。
相続が生じると、相続人全員が法定相続分に応じて一つ一つの遺産を共有している状態になるのです。
預貯金であれば1円単位まで分ければ済みますが、不動産のような分割しにくい財産については売買によって換価するにも全員の合意が必要であり、かといって、共有状態を解消するには、今度は相続人全員参加による遺産分割協議の成立が必要になります。
相続人間で話し合いがまとまらない、音信不通の者がいる、そのような状態を放置している間に二次三次相続が生じると、いよいよ膠着状態に陥ってしまうのです。
⑵特定財産承継遺言
この厄介な遺産共有状態を発生させない方法があります。
「特定財産承継遺言」です。
令和元年民法改正以前は「遺言による遺産分割方法の指定」と呼ばれており、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言のことです。
具体的には「不動産は甲に、預貯金は乙に相続させる」と遺言に記載します。
この「相続させる」という方法をとれば、相続開始によって直ちに各財産が指定された相続人に承継されます。
不動産であれば単独で名義変更ができることになり、その帰属や評価額等をめぐって紛争が生じる余地は基本的にはなくなるというわけです。
遺言の内容を合理的なものにする
特定財産承継遺言を利用すれば遺産共有状態を回避することはできますが、遺言の内容も重要です。
そこで、次に、紛争予防という観点から、遺言の内容において特に注意すべきことを紹介します。
⑴遺留分に注意
遺言の内容は遺言者が自由に決めることができますが、極端な遺産の分け方は、遺留分をめぐる紛争に繋がるおそれがあります。
遺留分とは、相続人に法律上保証された一定割合の相続財産のことで、日本の民法では遺留分が遺言よりも優先されています。
遺言に紛争予防機能を持たせたいのであれば、遺留分の問題が生じないように、相続人間のバランスに配慮した遺言書を作成することが重要です。
⑵遺産は漏れなく記載
相続の対象となる財産に一部記入漏れがあった場合、その財産について相続人間で遺産分割協議をしなければならず、これではせっかく作成した遺言書の役割を活かし切れません。
また、金融商品やデジタル遺品等、遺産を探すことは遺族にとっては骨の折れる作業です。
すべての財産が遺族に滞りなく引き継がれるように、記載漏れには十分注意して下さい。
⑶付言事項の活用
付言事項とは、遺言書の最後に遺言者の気持ちを書いておくことです。
書いても書かなくてもよく、また、内容に決まりもありません。
付言事項そのものに法的効果は生じませんが、財産分配の理由や遺族への思いを書くことで、これを読んだ遺族が納得し円満に相続を進めるということが珍しくないのです。
遺言によって相続紛争を予防するためには、付言事項の活用をお勧めします。
遺言書の種類
遺言書には、次の3種類があります。
・公正証書遺言
公証人が遺言者の口授内容を筆記し、遺言者および証人2名以上が署名・押印することによって作成される遺言書です。
・自筆証書遺言
遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印することによって作成される遺言書です。
・秘密証書遺言
遺言者が作成し署名・押印した証書を封じ、その封書を公証人に提出したうえで必要事項の記載を受け、さらに遺言者および証人2名以上が封書に署名・押印することによって作成される遺言書です。
各遺言書について特徴を簡単にまとまめました。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成者 | 本人 | 公証人 | 本人 |
作成場所 | 自由 | 公証役場 | 公証役場 |
証人 | 不要 | 2人以上 | 2人以上 |
手数料 | 不要 | 財産価格及び相続人数に応じる | 11,000円 |
保管場所 | ・本人が保管 ・自筆証書遺言書保管制度を利用すれば法務局 |
公証役場 | 本人が保管 |
家庭裁判所の検認 | 必要 但し、上記保管制度を利用する場合は不要 |
不要 | 必要 | メリット | ・手軽 ・安価 |
・紛失、改ざんのおそれが低い ・公証人に内容を確認してもらえる |
・内容の秘密を保持 ・偽造、改ざんのおそれを防げる |
デメリット | ・紛失、改ざんのおそれ ・無効になるおそれ ・保管制度を利用しない場合は発見されないおそれ |
・手数料がかかる ・証人が必要 |
・紛失のおそれ ・無効になるおそれ ・手数料がかかる ・証人が必要 |
まとめ
相続紛争を予防するには、遺族がもめない遺言書を作成することが大切です。
しかし、内容や方式、保管場所等、すべてにおいて「もめない」遺言書を準備するのは決して容易ではありません。
当事務所では各種遺言書作成のサポートはもちろん、お書きになった遺言書のチェックも行っております。お気軽にお問い合わせ下さい。