遺産分割の話し合いがまとまらない
相続が開始されると、遺言がない場合、又は全相続人が遺言とは異なる内容の分割を希望する場合は、遺産分割協議が行われることになります。
しかし、遺産分割協議では各相続人の利害が対立し、話し合いがまとまらないことも少なくありません。
本記事では話し合いがまとまらない原因や生じる不都合、逆にまとまらなくてもできることについて解説し、さらに、まとまらない場合の対処法についても紹介します。
まとまらない原因
遺産分割協議がまとまらない原因として以下のような事情が考えられます。
⑴ 相続人が多い
遺産分割協議は必ず相続人全員で行わなければならず、1人でも欠けた協議は無効となります。
人数が多い場合は、全員と連絡を取り合うだけでも一苦労である上に、特定の財産に人気が集中するなど、相続人間の利害が衝突しやすくなります。
⑵ 数次相続が生じた
話し合いがまとまらない間に二次、三次相続が生じて、今まで交流のなかった人が相続人として加われば、さらに意思疎通が難しくなります。
さらに数回分の相続について話し合う必要があり、話し合う論点が錯綜しかねません。
⑶ 相続財産中に不動産が含まれている
不動産の場合、現物分割するには全員の同意が必要、換価分割(売却の上、代金を分ける)にも全員の同意が必要です。
これに対し、分割するのではなく特定の相続人が取得する場合は、その相続人に代償金を支払う資力があることが前提となり、共有状態を続ければ紛争を先送りすることになります。
⑷ 故人の生前に特別な受益や寄与をした者がいる
生前贈与を受けていた者がいる場合や、家業の手伝いや介護等により相続財産の増加や維持に貢献した者がいる場合、他の相続人と同様に分け合うことはむしろ不公平です。
そこで、法は不公平を是正するため、特別受益の持ち戻しや寄与分という方法を準備しています。
しかし、実際には対象となる事実の範囲やその評価をめぐって争いとなり、そもそも不公平な扱い自体への不満が、話し合いの場で表面化することも少なくありません。
まとまらないと困ること
遺産分割がまとまらない原因は様々ありますが、いつまでに協議をまとめなければならいという期限はありません。
しかし、放っておくと以下のような不都合が生じます。
⑴ 未分割での相続税申告
遺産分割協議には期限はありませんが、相続税の申告には期限があります。
相続を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をする必要があり、期限内に遺産分割がまとまらない場合は、未分割の状態で相続税申告をすることになります。
未分割での相続税申告とは、全相続人が各法定相続分に応じて相続したと仮定して金額を算出し、とりあえずは期限内に相続税を申告します。
そして、遺産分割協議成立後に改めて計算し直し、足りない人は追加納付を、余分に納付した人は還付を受けるという納税方法です。
原則として、最終的な納税金額は各自の取り分に応じた適正なものにはなります。
しかし、一時的とはいえ本来の金額よりも多い納付を求められる人にとっては大きな負担です。
また、相続人のうち1人でも相続税を支払わない場合は、他の相続人は連帯納付義務を負い、さらに滞納が続くと、相続財産を差押えされる可能性があるのです。
⑵ 不動産の有効活用ができない
⑶ 銀行預金が引き出せない不動産と異なり、預貯金なら分割も容易ですぐに引き出せると考える方がいるかもしれません。
しかし、預金債権も遺産分割の対象です。
民法改正によって預貯金の仮払い制度が始まりましたが、相続人全員の合意(所定用紙に全員の署名と実印)がある以外は、遺産分割が確定するまでは相続人単独での全額の払戻しは、原則としてできません。
まとまらなくてもできること
逆に、遺産分割協議がまとまらなくてもできることがあります。
これらは協議が成立しない不都合を根本的に解消するものではありませんが、相続人間の摩擦を軽減し、相続財産の目減りを緩和させることが期待できます。
よりスムーズに遺産分割協議を実現させる準備として、参考にして下さい。
⑴ 保存行為
各相続人は、対象物の物理的な現状を維持し、かつ、他の相続人に不利益が及ばない行為をすることができます。
- ・修繕
- ・腐敗しやすいものの売却
- ・無権利者が占有している場合の妨害排除請求
- ・債権の時効中断措置
- ・法定相続分に基づく登記 など
⑵ 各種調査
遺産分割協議がスムーズに進行するよう、必要な情報や資料を集めることができます。
- ・金融機関に口座有無の照会や残高証明書、取引履歴の発行を依頼
- ・公証役場での公正証書遺言の検索
- ・相続人調査
- ・不動産の所有状況の確認 など
⑶ 預貯金の払い戻し(909条の2)
銀行預金等の払い戻しは相続人全員で手続きを行うか、遺産分割協議を経た後でなければできないのが原則です。
しかし、故人の葬式費用や生計を共にしていた相続人の生活費など、協議を待てないこともあります。
そこで、2019年7月から、150万円を上限として、相続開始時における預貯金債権額の3分の1に各相続人の法定相続分を乗じた金額までなら、各相続人は単独で預貯金の払戻しができるようになりました。
なお、払戻金はその相続人が遺産の一部分割によって取得したものとみなされます。
まとまらない場合の対処法
相続人らによる話し合いで遺産分割がまとまらない場合には、外部の力を借りることができます。
⑴ 遺産分割調停
家庭裁判所によって選任された調停委員の仲介のもと、相続人全員で合意点を模索する手続きです。
調停委員という第三者が入るものの、基本は相続人間による話し合いです。
⑵ 遺産分割審判
家庭裁判所が遺産分割の内容を決める手続きです。
期日の指定や当事者の陳述・聴取、証拠調べ等、調停と比べるとかなり厳格な手続きに従って進行します。
⑶ 専門家に相談
身内の問題に関しては裁判沙汰にはしたくない、とお考えの方もいると思います。
その場合は民間で実施されている調停(ADR)の利用や、弁護士、税理士、司法書士等の専門家に相談する方法もあります。
専門知識を活かして話し合いの交通整理をしてもらえるはずです。
まとめ
遺産分割の話し合いがもとまらなくてもできることを一部ご紹介しましたが、それらは「当座しのぎ」にしかならず、まとまらないことによる不都合を打ち消すものではありません。
まとまらない状態を放置すればするほど、不都合は大きくなっていきます。
遺産分割協議の雲行きが怪しいと感じた時点ですぐにご相談ください。
お客様のご意向に沿いつつ、早期の解決を目指します。