遺産(不動産、預貯金等)の名義変更
不動産、預貯金、株式どの遺産を相続した場合、被相続人の名義のままでは様々な不都合が生じます。
本コラムでは名義変更しないデメリットをまず確認し、それぞれの場合の名義変更手続きについて解説していきます。
不動産
⑴名義変更しない場合のデメリット
現時点では相続登記するという義務はありません(令和6年4月から義務化)。
しかし、相続が繰り返されることで名義変更を行うべき相続人が増加することになり、それに伴い相互の関係も希薄になって話し合うこと自体が難しくなっていきます。
また、相続人の1人が法定相続分に応じた共有名義の相続登記後、自己の持ち分を第三者に売却したり、共同相続人の債権者が差し押さえたりした場合には、分割や売却するにも一筋縄ではいかなくなります。
収益等による不動産活用も被相続人名義のままではできません。
特に資産価値の高い不動産については、相続登記しないことの不都合は非常に大きいものになります。
⑵相続登記の手続き
相続登記とは、相続する不動産の名義変更のことです。
民法や不動産登記法といった法律知識が必要な場面もありますが、相続人自身で登記申請することも可能です。
その必要な書類や流れについて確認しましょう。
【必要書類】
遺言書がある | 遺産分割協議書がある | 法定相続分に従う | |
---|---|---|---|
不動産 | ・遺言書(自筆証書遺は検認済のもの。 法務局での自筆証書遺言制度を利用した場合は、検認不要) ・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言では不要) ・被相続人の戸籍謄本又は除籍謄本 ・被相続人の住民票の除票 ・承継する人の戸籍謄本 ・遺言執行者選任審判書謄本 (遺言書で遺言執行者の指定がない場合) |
・遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・実印の捺印があるもの) ・相続人全員の印鑑証明書 |
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・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 ・被相続人の住民票の除票 ・相続人全員の戸籍謄本 |
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・登記申請書 ・承継する人の住民票 ・固定資産評価証明書、又は、固定資産納税通知書添付の課税明細書 ・委任状(専門家に依頼する場合) |
【手続きの流れ】
- ①登記事項証明書を準備する
- 対象となる不動産の情報を確認したり申請書に記入したりするために、まずは現状の登記事項証明書を用意します。
不動産の登記事項は一般に公開されており、誰でも全国の法務局で手数料を支払えば取得することができます。
不動産所在地が遠方の場合は、管轄の法務局にオンラインや郵送で申し込んで取得しましょう。 - ②登記申請書を作成する
- 相続登記をご自身で行う場合は、申請書も自ら作成する必要があります。
申請書の書き方は相続のケースによって異なります。
各ケースの書式例が法務省のホームページに掲載されていますので、参考にして下さい。
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
なお、各法務局でも無料で登記相談(要予約)を行っています。
作成した申請書と集めた書類を持参すれば不備がないかを確認してもらえるため、申請前に利用するとよいでしょう。 - ③法務局で登記申請をする
- 不動産所在地を管轄する法務局に、上記表に記載した【必要書類】と登記申請書を併せて提出して申請を行います。
申請方法は直接出向くことはもちろん、郵送でも可能です。
申請時には登録免許税(固定資産評価証明書の評価額の0.4%)を納める必要があります。 - ④登記完了後、法務局から受領した登記識別情報などの書類を保管する
-
登記完了後、法務局の窓口もしくは郵便で登記識別情報通知書の交付を受けます(ら申請後1~2週間)。
登記識別情報とは従来の「登記済権利証」(通称、権利証)に該当するもので、不動産を売却等する場合にはこの12桁からなる英数字の表記が必要になります。
当然、他人に知られてはいけませんし、紛失・失念した場合には再発行されません。
厳重な管理を心掛けてください。
預貯金
⑴名義変更しないデメリット
預貯金についても相続を理由とする名義変更は義務ではありません。
しかし、相続開始を知った銀行等は、被相続人名義の口座を凍結して名義変更手続きが済むまで、引出し・送金・自動引落としに応じなくなります。
そのためローンや公共料金の引落しができていないことに気付かず、延滞料が発生するおそれがあります。
また、名義変更していない状態で預金を引出してしまうと相続を単純承認したみなされることがあり、後から多額の負債が判明しても相続放棄ができなくなってしまいます。
⑵名義変更手続き
銀行によって多少の違いがありますが、必要書類とおおまかな流れは以下のようになります。
【必要書類】
遺言書がある | 遺産分割協議書がある | 法定相続分に従う | |
---|---|---|---|
預貯金 | ・遺言書 ・検認調書または検認済証明書(法務局での自筆遺言証書保管制度を利用しなかったり、公正証書遺言でない場合) ・被相続人の戸籍謄本等 ・相続人の実印と印鑑証明書 ・遺言執行者選任審判書謄本(遺言書で遺言執行者の指定がない場合) |
・遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・実印の捺印があるもの) ・相続人全員の印鑑証明書 |
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 ・相続人全員の戸籍謄本 ・相続人全員の実印、印鑑証明書、届出印 |
<残高証明書請求時に必要> ・申請者の本人確認書類 ・申請者の実印と印鑑証明書 ・被相続人の住民票の除票等(死亡がわかるもの) ・戸籍謄本や遺言書等(申請者と口座名義人との相続関係がわかるもの) <名義変更請求時に必要> ・名義変更依頼書 ・被相続人名義の通帳、キャッシュカード、届出印 |
【手続きの流れ】
- ①残高証明書を請求する
-
預金額を知るために、取引銀行に対して残高証明書の発行を依頼します。
被相続人が複数の口座を持っていた場合は、全口座について調べます。
請求できるのは、相続人、遺言執行者、相続財産管理人です。
照会請求した時点で銀行は相続開始を知ることになり、口座が凍結されます。
残高証明書を請求するために必要な書類があります。表にてご確認ください。 - ②銀行指定の名義変更依頼書を作成する
-
用紙は銀行窓口で受け取ることができ、また、郵送してもらうことも可能です。
記入例は各銀行のホームページに記載されています。 - ③銀行に書類を提出する
- 名義変更依頼書と集めた書類を併せて銀行に提出します。郵送での提出も可能です。
- ④預金の払戻しを受ける
- 提出した書類の数にもよりますが、約2週間で指定した口座にお金が振り込まれ、名義変更の場合は相続人名義に変更した通帳が郵送されます。
上場株式
⑴名義変更しないデメリット
株式についても名義変更に期限はありませんが、売却や解約するには名義変更が必要です。
なお、非上場株式については当該株式会社との直接のやり取りになります。
ここでは、証券会社を通じて手続きを行う上場株式について説明します。
⑵名義変更手続き
【必要書類】
遺言書がある | 遺産分割協議書がある | 法定相続分に従う | |
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上場株式 | 預貯金の場合と同じ | 預貯金の場合と同じ | 預貯金の場合と同じ |
<残高証明書請求時に必要> ・申請者の本人確認書類 ・被相続人の住民票の除票等 ・戸籍謄本や遺言書等 <名義変更請求時に必要> ・移管手続依頼書 ・移管先口座 |
【手続きの流れ】
- ①残高証明書を請求する
- 被相続人の株の保有残高や保有銘柄を確認するために、取引証券会社に残高証明書の発行を依頼します
- ②移管手続依頼書を作成し、必要書類と共に証券会社に提出する
-
証券会社所定の移管手続依頼書に必要事項を記入し、書類と合わせて証券会社に提出します。
手続きの流れは預貯金の場合とほぼ同じですが、株式については口座自体の名義変更はできません。
したがって、相続人自身の証券口座が必要になり、口座がない場合は新規口座を開設しなければなりません。
その場合は本人確認書類やマイナンバーカードの写し、証券口座開設のための申込書などを準備が必要です。 - ③証券口座の振替えを受ける
-
証券会社において書類の確認後振替が実行されれば、手続きの完了を知らせる通知が届きます。
およそ2〜3週間程度で手続きは完了します。
まとめ
以上、不動産、預貯金、株式の名義変更手続きをするにあたっては、多くの書類が必要で手続きも複雑です。
一般人にとっては、初めてのことが多く、これらの書類を取得するには時間がかかってしまうことがあります。
これらの名義変更手続きをスムーズに進めるために是非、専門家である弁護士にご依頼ください。